パシュトゥン人式ビューティフルの意味体系

「サルマ、ビューティフル!」。

マリアムは、
まるでマッチ棒ものってしまいそうな長く美しいまつげを瞬かせて、
私の顔をみるたびに、こう呟くのだった。

マリアムは、私の姪(夫と腹違いの兄の娘)である。
そして、サルマとは、筆者の別名でもある。

「サルマ、ビューティフル?」
マリアム以外にも、誰しもが私にこう質問した。

一口チャパティ(小麦粉でつくるパンのこと:主食にあたる)を口に入れると、
「サルマ、ビューティフル?」

「サルマ、ビハ(夫の故郷である村の名前)、ビューティフル?」

一口チャイをすすっても、「サルマ、ビューティフル?」

究極の問いは、
「ガットハン(私の夫の親戚内での呼称)、
ビューティフル?」(笑)。

同じく姪のナディア(同じく夫の腹違いの長兄の娘)からであるから、
伯母として真剣に答えてやるしかないだろう!

「ジー。(イエス)」

ナディアは、満足そうに一気にこう語った。

「そうなの、ガットハンはそれはそれは昔から元気がよくて、
喧嘩ばっかりしていて問題児で…って父母からも聞いていたけれど、
子どもたちにはとってもやさしくて、
私が小さいとき、いつも一緒に遊んでくれたわ! 

それに…ふふふ」。


「それに…なに? ナディア?」
笑いをこらえてなかなか教えてくれないナディアに催促する私。


「それに…、ガットハンは、実はすごいダンサーなの。
彼の踊りは一番。
ガットハンが踊ると、とっても場が盛り上がるのよ」。


そこで、また私の横に座って離れないマリアムが
「サルマ、ビューティフル!」
「ガットハン、ビューティフル!」と茶化す。

この冗談好きな姪たちの究極の質問の背後には、
私が美形好みか、
はたまたそうではないか、の真価が問われるところかも…と思いつつ、
パシュトゥン人式「ビューティフル」の語彙の背後に、
ある意味体系が存在することを説明しなければならない。

その前に、ほんの少しだけ前置き注釈。

私の夫は、パキスタン国籍である。
前述した「チャパティ」や「チャイ」から連想した方も多いであろう。
が、私は続けて
「夫はパキスターニですが、同時にパシュトゥン人です」と説明するように心掛けている。

「パシュトゥン人? 何それ?」。
初めて聞く方が殆どであろう。

夫の故郷は、むかし、むかし、その昔、
ゴダイゴが「ガンラーラ、ガンダーラ」と歌ったそれよりももっと遡ること昔、
三蔵法師のモデルといわれる玄奘が、
仏典を求めて中国からアフガニスタンを越え、
インドを目指したときの道筋にあたる。

地図がお手元にある方は、お暇なときに開いてみて欲しい。
パキスタンの首都・イスラマバードの右上にある地方都市・ミンゴーラから
車で約30分ほど入ったところである。

このミンゴーラ周辺は、
当時は仏塔(ストーゥパ)が立ち並び、花が咲き乱れ、
「ウディヤーナ」(楽園)と呼ばれていた土地であった。

が、現在に至っては、
パキスタン・イスラム共和国・NWFP州=(北西辺境州)という行政地域名が示す通り、
「中央」からみて「辺境」と呼ばれている。

だが、スワート川が流れ、緑深く、花々が咲き乱れ、林檎の産地として有名である。

この「辺境」に住む「パシュトゥン人」は、世界最大の部族とも言われている。
客をもてなすことを最大の喜びとし、
男たちは勇敢果敢であることが最も誇りとされる。


そんな彼等の生活の基準は、「ビューティフル」。
彼等の日常語であるパシュトー語でいえば、「コレレ」(=ビューティフル)。


「ガットハン、ビューティフル!」を敢えて訳せば、

「ガットハンは、とてもチャーミングな性格。
 彼の近くにいると、場が明るくなるわ」であり、

「サルマ、ビューティフル!」の意訳(笑)は、

「サルマはいつも笑っている。
 サルマの顔はいつも光輝いている。
 サルマの顔がいつも光輝いているのは、
 神がサルマを祝福してくれているからに違いない」

 ということになるらしい。

日本にいながらも、夫は、
「お願い、ビューティフルなマッサージをして下さい」と私にねだる。


アヤシイ日本語と思うなかれ(笑)。
意味するところは、
気持ちのいい、とびきりのマッサージを所望する、という意味であるが、
その本質は
「心をこめて、丁寧にその人の気持ちになってやって欲しい」という意味らしい。

また、夫は、私が寝不足気味な顔をしていると、
「今日は、ビューティフルじゃないね」と、
痛いところをついてくる。

その反対に、うれしいことがあったりすると、
「今日のあなたは、とてもビューティフルですね。
(それを見た)私も嬉しいです。
(だから)私の心もビューティフルです!」と、
聞いてる私が恥ずかしくなるような誉め言葉をさらり、と言ってくれる。

風邪などを引くと、もう、
「お願いです、ビューティフル寝ててください!」

生活そのもの、基準がそれ、「ビューティフル」=「コレレ」なのだ。

さて、翻って我が故郷:「ニッポン」をみたとき、
私たちの「ビューティフル」の判断基準は、何であろうか。

キムタク主演で「ビューティフル・ライフ」というドラマが
爆発的人気を博したことは、記憶に新しいところだが、
某大物タレントの婚約指輪のダイヤのカラットが話題に上がり、
同じブランドの指輪を買い求めるカップルが増えているとか、いないとか…。

また、暦の上では啓蟄を過ぎ、春めく今日この頃。
街ゆく女性たちは、色とりどりのの「パシュミナ」を、
それぞれ思い思いのスライルで決め、さっそうと闊歩する。

しかし、「パシュミナ」の主たる「原産国」を訊ねたら、
何人が答えられるであろうか?

勿論、私たちが望んでいる答えは、
「ブランド」名ではないことだけは、確かなようだ。

アー ユー ビューティフル?

アム アイ ビューティフル?

「ニッポン」 ビューティフル?

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